ドメインとは、もともと生物学の用語であり、生物の「生存領域」という意味合いで使われていました。経営学の分野では「事業領域」を意味する言葉で、企業がどの領域で活動するのかということを示すものです。また、どの領域では活動しないのかということを示すものでもあり、ここが「とても重要だ!」といわれています。
もし「あなたの会社(事務所、お店など)のドメインは?」と問われたら、どのように答えますか。ここで、そもそもドメインを定義する必要があるのでしょうか。ドメインを決めるとなにかよいことでもあるのでしょうか。それとも、ドメインを決めないとなにかわるいことでもあるのでしょうか。ドメインの決定は、「経営戦略」を策定するためのプロセスの一部です。「作戦」をたてるために、どの領域で活動するのか、どの領域で活動すれば成功できそうなのかということを明確にするためのものです。
ちょっと有名な例を参考にして考えてみたいと思います。アメリカの鉄道会社とハリウッドの映画会社のお話です。
アメリカの鉄道会社は、ドメインを「鉄道事業」と定義していました。ドメインの定義が狭いため、自動車業界や航空業界が台頭しても、「それらの業界とは別領域の事業だから関係ない」と認識してしまい、対応が遅れた鉄道会社は衰退してしまったといわれています。
もし、ドメインを「輸送事業」と再定義していれば違う結果であったことが推測されています。
ハリウッドの映画会社はテレビ普及などの影響で極度の不振に陥りましたが、ドメインをそれまでの「映像の提供」から「エンタテイメント」に再定義し、業績を回復させたそうです。
ドメインには、「経営戦略」と同じように、その企業のステークホルダー(従業員やお客さん、株主などの利害関係者)にとっての意思決定や行動の指針になるという役割もあります。ドメインを定義するということには、従業員が、企業内でどのように意思決定をしてどのように行動するのかということを示すことができます。
ドメインの範囲は、狭すぎても広すぎてもよくありません。さきほどの例のように、ドメインの範囲が狭すぎる場合は「環境変化への対応が遅れる」、「事業に制約が生じる」などのデメリットが考えられます。一方で、ドメインが決まっていない、またはドメインの範囲が広すぎる場合は「経営資源が分散する」、「焦点が不明確になる(お客さんに対しても認知されにくい)」などのデメリットが考えられます。
ドメインには企業そのものの企業ドメインと企業の中のそれぞれの事業に対する事業ドメインがあります。事業ドメインの定義をエーベルは、①顧客層(対象とする市場:誰に)、②顧客機能(製品やサービスが満たすべき顧客のニーズ:何を)、③技術(「技術」の面から取り組む事業範囲:どのように)の3次元により定義しています。顧客、顧客機能、技術のいずれかの要素でセグメントを絞ることで、より強みを発揮できる分野に自社の経営資源を集中させることができるようになるため、自社の得意とする分野での差別的優位性を築くことができるようになります。
BTS インキュベーションマネジャー
中小企業診断士 川崎 佳朗